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人の心を震わせる魔力のような人間的魅力

人間としての幅の広さ、常にカラッとした明るさを持った
型破りな政治家。
本の帯にそう書かれていた。

最後の愛弟子、石破茂という政治家が
田中角栄のことをズバリ言い当てる。

第64代内閣総理大臣 田中角栄という人間である。

僕の次男が最近購入した書籍を知って、
少し驚きを隠せなかったが、
それがこの本だ。



田中角栄 100の言葉。

80万部突破と、その帯に書かれていた。

没後20年以上を経て、今なおその人気は衰えない。
その本を読んでさらに驚いた。

田中角栄は哲学者か?

政治家でも、こんな哲学を持って生きていたんだな。
そのことがよく解った。

その本の中から、以下の言葉に
僕は感じ入り心を打たれた。

政治家というよりも、
人間、田中角栄が言った言葉だと感じた。



“わかったようなことを言うな。気の利いたことを言うな。そんなものは聞いている者は一発で見抜く。借り物ではない自分の言葉で、全力で話せ。”


“人から受けた恩を忘れてはならない。必ず恩返しをしろ。相手が困ったとき、遠くから慎み深く返してやるんだ。”


“約束したら、必ず果たせ。できない約束はするな。”


“功は焦らなくても良い。自分に実力がありさえすれば、運は必ず回って来る。”


“時間の守れん人間は何をやってもダメだ。”


“失敗は嫌という程したほうがいい。そうするとバカでない限り、骨身に沁みる。判断力、分別ができてくる。これが成長の正体だ。”


“世の中は白と黒ばかりではない。敵と味方ばかりでもない。その中間地帯、グレーゾーンが一番広い。真理は常に中間にある。”


“人生で重要なのは「間」だ。イノシシのように一本調子なのはうまくいかない。よく人間を観察しなければならない。”


“相手が立てなくなるまでやっつければ、敵方の遺恨は去らない。徹底的に論破してしまっては相手が救われない。土俵際には追い詰めるが、土俵の外に押し出す必要はない。”


“人間は誰しもできそこないだ。しかし、そのできそこないを愛せなければ政治家は務まらない。そこに政治の原点があるんだ”


“眠ることは死ぬことだ。人間は毎日、死に、生きている。その心境が分かってから、すべてが怖くなくなった。”



金権政治家だと揶揄された。しかし、
「オヤジの場合はカネで手に入れた権力じゃない。心で手に入れたものだ」
そう語ったのは、田中派議員だった渡部恒三である。

田中角栄はたしかにカネを配った。

しかし重要な点は、
返済や見返りを求めて渡したものではなかったという点だ。
それは「むき出しの愛情表現」だったと語る関係者は多い。

田中角栄の金銭哲学に関してはこの言葉に表れている。

“人に金を渡す時は頭を下げて渡せ。くれてやると思ったらそれは死にガネだ。”

人間が現金を受け取るときの「後ろめたさ」を信じていた。


軽井沢でゴルフをする時はいつも、
40人近い、若い警察官が警護にあたった。

ゴルフが終わって宴会タイムになると
田中角栄は秘書を呼んで
心付けの入った人数分の白封筒を手渡し、

「みんな若いんだから、ハメをはずして楽しませてやれ。
宿舎に帰るバスも手配しておくんだ。
お前も宴会には顔を出さなくていい」

翌朝、帰京する田中角栄を
警官たちは敬礼で見送り、涙ぐむ者も多かったという。


決して偉ぶることをしなかった。
功名心と上昇志向だけが先行する人間を
すぐに見抜いた。

人間の深奥は、善悪を超えたところに存在するものであり、
偏狭な正義を振りかざす人間に対しては、
はっきりと「No」を突きつけた人だった。

どんなに非常な話でも、
それを恐れずズバリと言うことが最良の結果につながる、
そういう信念を持っていた。

残酷な事実よりも、
甘美なウソの方が、
よほど人間を苦しめることを知っていた。

他人の失敗に寛容であり、
それを克服しようとする姿を好んだ。
清濁併せ呑む人間としての強さを持っていた。


そして潔かった。

「できることはやる。できないことはやらない。しかし、すべての責任はこのワシが負う。以上!」


そんな田中角栄の母・フメは、
総理大臣に就任した息子がブラウン管の向こうで汗をかいているのを見て、
テレビ画面をハンカチで拭いた、という。

それを見た支援者からは小さなすすり泣きが漏れたという。




どんな時も道徳を踏み外さないで生きた渋沢栄一



渋沢栄一こそ、日本人の中でも、最も、
あの、世界一の経営学者ドラッカーに絶賛された実業家は、いない。

本物の、本物たる所以は、彼の残した言葉にはっきりと表れている。

渋沢栄一は哲学者か?

彼も田中角栄と同様、
実践の中から学び、行動哲学を持って生きた人だった。

彼が思想の上で大切にしたものは
論語や武士道だった。

道徳を大事にして生きた。


“一人ひとりに天の使命があり、その天命を楽しんで生きることが、処世上の第一要件である。”


“事業には信用が第一である。世間の信用を得るには、世間を信用することだ。個人も同じである。自分が相手を疑いながら、自分を信用せよとは虫のいい話だ。”


“自分が信じないことは言わず、知ったからには必ず行うという思いが強くなれば、自然に言葉は少なく、行動は素早くなる。”


“交際の奥の手は至誠である。理にかない調和がとれていれば、ひとりでにうまくいく。”


“空論に走り、うわべだけを飾る国民は、決して真理の発達をなすものではない。”


“死ぬときに残す教訓が大事なのではなく、生きている時の行動が大事なのだ。”


“人を選ぶとき、家族を大切にしている人は間違いない。仁者に敵なし。私は人を使うときには、知恵の多い人より、人情に厚い人を選んで採用している。”


“日本では人知れず善いことをするのが上である。自分の責任はもちろん、他人の責任までも追うことが武士道の真髄とされる。”


“反対者には反対者の論理がある。それを聞かないうちに、いきなりけしからん奴だと怒ってもはじまらない。問題の本質的な解決には結びつかない。”


“四十、五十は洟垂れ小僧、六十、七十は働き盛り、九十になって迎えが来たら、百まで待てと追い返せ。”


“真の富とは道徳に基づくものでなければ決して永くは続かない。”


“論語とソロバンというかけ離れたものを一つにするという事が最も重要なのだ。”



僕は、この二人は、政治家と実業家の違いはあるが、
人間的魅力に尽きないという意味では、
日本人が、今こそ見直し、その生き様と心意気から学ぶに値する人だと思う。(Mr.K)